岡山地方裁判所 昭和43年(行ウ)4号 判決 1969年7月24日
岡山県浅口郡鴨方町大字六条院中三四六二番地
原告
栗山精麦株式会社
右代表者代表取締役
栗山好幸
右訴訟代理人弁護士
内堀正治
玉島市阿賀崎六六六番地
被告
玉島税務署長
横田正美
右指定代理人
小川英長
右同
高木茂
右同
金沢昭治
右同
三宅正行
右同
田原広
右同
常本一三
右同
森義則
右当事者間の昭和四三年(行ウ)第四号法人税申告期限延長承認申請却下処分無効確認請求事件につき当裁判所は次の通り判決する。
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
一、当事者の求めた裁判
原告訴訟代理人は、「被告が昭和四二年八月九日付で原告に対してなした原告の昭和四一年六月一日から昭和四二年五月三一日までの事業年度分の法人税申告期限延長承認申請を却下した処分は無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告指定代理人は主文同旨の判決を求めた。
二、請求原因
(一) 原告は精麦業を営んでいる株式会社であるが、昭和四一年六月一日から同四二年五月三一日までの原告会社の事業年度(以下本件事業年度という。)に関する法人税確定申告書を被告に提出するに当り、関係帳簿類を一切広島国税局等に領置されていた為決算を確定することが出来なかつたことを理由に昭和四二年七月三一日付で被告に対し法人税の申告期限延長申請をしたところ、被告は同年八月九日付で申請期限経過を理由とし右申請を却下した。
(二) そこで原告は同年八月二一日付で被告に対し異議の申立をしたところ、広島国税局長は右異議申立について同年一一月二三日審査請求があつたものとみなしたうえ昭和四三年二月八日付で審査請求を却下する裁決をなし同年二月一五日付、その旨原告に通知した。
(三) 法人税法七五条によれば、確定申告期限延長承認申請は当該事業年度終了の日の翌日から四五日以内と法定されているが、これはあくまで一般通常の場合に該当するものであり、本件の如き帳簿類を一切広島国税局等に差押えられ、事実上決算を確定することが不可能な場合は特例を認むべきである。このことは法に規定がないとしても、法に優先する条理論として当然である。よつてこれを却下した被告の処分は無効であるからその確認を求める。
三、請求原因に対する認否
第一項、認める。
第二項、認める。
第三項、争う。
四、被告の主張
(一) 内国法人は法人税法七四条一項の規定により各事業年度終了の日の翌日から二ケ月以内に確定申告書を提出しなければならないが、災害その他止むを得ない理由により決算が確定しないため、提出期限までに提出することができない場合には、同法七五条二項の規定により事業年度終了日の翌日から四五日以内に、提出期限までに決算が確定しない理由、期限延長についての期日の指定等の事実を記載した申請書を提出しなければならない。原告会社は本件事業年度の確定申告についての申告期限延長申請書を最終期日である昭和四二年七月一五日を徒過して同年七月三一日付で被告に提出したが、右申請書は事業年度終了の日の翌日から起算し明らかに四五日を経過しているので被告は却下した。
(二) 原告会社は帳簿書類を広島国税局等に留置されていたため決算を確定することができなかつたと主張する。しかし、原告会社の法人税法違反けん疑事件で領置した書類は、昭和三七年六月一日から同四一年五月三一日までの四事業年度間の帳簿の一部である。したがつて、本件事業年度の決算に必要な帳簿は領置していないので決算を確定することができなかつたとする事情は全くない。
従つて原告の主張する事由は同法条にいうやむを得ない理由にもあたらない。
五、証拠
被告指定代理人は乙第一号証を提出し、原告訴訟代理人はその成立を認める、と述べた。
理由
原告が昭和四一年六月一日から同四二年五月三一日までの法人税の申告にあたり、同四二年七月三一日付で被告に対し右法人税の申告期限延長申請をしたところ、被告は同年八月九日付で申請期限経過を理由とし右申請を却下し、更に原告は同年八月二一日付で被告に対し異議の申立をしたところ、広島国税局長は右異議申立について同年一一月二三日審査請求があつたものとみなしたうえ昭和四三年二月八日付で審査請求を却下する裁決をなし、同年二月一五日付、その旨原告に通知した事実は当事者間に争いがない。法人税法七五条一項は、災害その他やむを得ない理由により決算が確定しないため事業年度終了の翌日から二月以内に確定申告書を提出できない場合にはその提出期限の延長を所轄税務署長に対して申請しうる旨定めているが、なお同法七五条二項により右の申請は事業年度終了の翌日から四五日以内になすべきものと定められている。そうすると、本件の場合遅くとも昭和四二年七月一五日までに提出期限の延長申請がなされなければならないところ、原告の本件申請が右期限を既に一六日徒過してなされたものであることは前記争のない事実に照し明らかである。
さらに成立に争いのない乙第一号証によれば、原告会社に対する法人税法違反けん疑事件につき、広島国税局が昭和四二年五月一六日原告会社において行なつた臨検捜索の際捜索の目的とされた物件は、昭和三七年六月一日から同四一年五月三一日に至る四事業年度分に関する帳簿等であつたこと、および右捜索の結果証拠物の差押がなされたことが認められるが、本件事業年度に関する帳簿類の領置もしくは差押がなされたことを認めるに足りる証拠はない。
仮に、右差押の対象となつた証拠物中に、本件事業年度の帳簿類が含まれていたとしても、これが原告主張のように提出期限の延長申請期限に関して定められた前記四五日の法定期間を条理上さらに延長すべき根拠とはならないことは言うまでもない。以上の理由により原告の本件申請を却下した被告の処分は適法かつ有効であり、原告の請求は理由がないからこれを棄却すべく、訴訟費用については民事訴訟法八九条を適用し主文の通り判決する。
(裁判長裁判官 五十部一夫 裁判官 東孝行 裁判官 大沼容之)